複合的に絡み合った要因を整理し、効率的にビジネスを成功に導く手助けをしてくれるフレームワークは、Webマーケティング戦略を練る上で非常に有効な手段です。
この記事では、段階に応じたフレームワークを紹介していきます。
目次
フレームワークを活用すべき理由
フレームワークとは、「フレーム」(枠組み)の名の通り、ビジネスにおける課題の把握や施策の検討を行うための「思考の枠組み」のことを指します。
フレームワークはさまざまなパターンのものがありますが、共通しているのは「ビジネスの成功へのプロセスを論理的に導くための手助けをする」という点です。
フレームワークの特徴1:思考を効率化できる
ビジネスを成功に導くための要因はひとつではありません。例えば「最近売上が伸びない」という課題ひとつを取っても、様々な要因が複合的に作用しているため、どこから手をつけるべきか悩んでしまうこともあるでしょう。しかし、「市場の動向」「競合他社の動向」「ユーザーニーズの変化」など、考えるべきことが整理されていれば、思考がしやすくなります。
フレームワークは元々思考の効率化のためにコンサルタントやマーケティング学者などの先人が生み出し、世間に浸透した思考の枠組みであり、さまざまな視点で整理されたいくつもの形式があります。それらを適切に活用することで思考不足による見落としや無駄な試行錯誤が省かれ、思考を効率化することができるのです。
フレームワークの特徴2:関係者間で認識を共有できる
フレームワークでは何をどう検討するかの道筋を体系的に整理しています。そのため検討段階において個人の感覚によるバイアスがかからず、複数の関係者間で共通認識を形成することができます。
また、先述した通り個人やチームの独自ルールではなく、専門家等が生み出し世間一般的に浸透した考え方であるため、関係者間の「共通言語」としやすいという特徴もあります。フレームワークという共通言語を使うことで打ち合わせも効率的になり、円滑に業務を進めることが可能となります。
Webマーケティングにおけるフレームワークの重要性
マーケティングとは、自社の商品やサービスを顧客に届けるための一連の活動を指します。
マーケティング戦略を立案する上では、まず現状分析が必要です。事業を取り巻く社会的な情勢はどうなっているのか、市場の状況はどうか、顧客ニーズの動向、自社の強み弱みなどを多角的に、適切に把握することが求められます。加えて、事業を実際に展開していく中での課題分析や改善施策の検討も不可欠です。
Webマーケティングにこそフレームワークが必要
Webマーケティングとは、上記の一連のマーケティング活動をWeb領域で行うものです。Webマーケティングの特徴は「ユーザーが商品・サービスを購入するに至るまでの行動を数値化でき、多くの手がかりを得ることができる」という点にあります。またWebマーケティングは手法も多様化している分、成果決定要因も非常に多い分野です。
ユーザーのWeb上での行動を正しく把握しながら、あらゆる事象を漏れや重複なく分析していくために、フレームワークの活用は非常に有効な手法となるのです。
Webマーケティングの段階に応じたフレームワーク
フレームワークの活用において重要なのは、目的に合わせて適切なフレームワークを選択することです。例えばまずは外部要因を分析すべきなのに、自社の商品やサービスの特徴を分析するためのフレームワークを使用すると、方向性を見失ってしまいます。
とはいえ、フレームワークの目的は明確に「これ」と定められているわけではないため、どのシーン、どの目的で活用するのかは解釈が分かれる部分もあります。この記事では数あるフレームワークを下図のように段階ごとに整理して紹介していきますが、必ずしもこの段階に応じてWebマーケティングの戦略立案が進むわけではありませんし、ここに挙げた以外にも多くのフレームワークが存在します。
杓子定規に当てはめすぎず、何をするためのフレームワークなのかの本質を理解した上で、適切に活用することを意識しましょう。
論理的思考のためのフレームワーク
論理的思考(ロジカルシンキング)とは、「物事を根拠と結論に分け、筋道立てて結論を導く思考」のことを指します。マーケティング分野に関わらず、論理的思考はビジネスにおける必須スキルであると言われます。なぜかというと、論理的思考が身についていることで結論に至るスピードと正確性が担保されるためです。
フレームワークは非常に複数の種類がありますが、以下で紹介する2つはその前提となる論理的思考を補助するものです。特定の条件下で使用するというよりは、思考の前提として常に意識するようにしましょう。
ロジックツリー
ひとつの問題や事象を複数の要因・要素に分解していくためのフレームワークです。大きな幹からどんどん枝分かれしていくようなイメージのために「ツリー」という名前がついています。
ロジックツリーは物事を要素分解していき本質を追求するのが目的です。「問題」と「要因(原因)」に分解していく場合もあれば、「目的」と「手段」に分解していく場合もあります。
上図のように「目的」と「手段」に整理した上でそれに数値目標を絡めたものが後述する「KPIツリー」となります。
このように構造化して整理することで、問題の全体像や要因同士の関係性がわかりやすくなり、取り組むべき物事の優先順位づけをするのにも役立ちます。
MECE
MECEは「Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive」の頭文字をそれぞれとった言葉です。和訳すると、「相互に重複なく、集合体として完全」、つまり「モレなくダブりなく」という意味になります。
これはすべてのフレームワークに共通する根本的な考え方で、何を検討する際に常にこの視点を持っておく必要があります。
注意すべきは、ダブりよりもモレがないかどうか。ダブりは後から排除することもできますが、モレの見逃しがないかどうかを慎重に確認するようにしましょう。
外部環境分析のためのフレームワーク
Webマーケティング戦略の立案にあたっては、まず自社を取り巻く外部環境から分析することが重要です。外部環境は自社でのコントロールが効かない部分ですが、その分正確に見極めないと競合他社に大きく遅れを取ることになります。
自社を取り巻く外部環境を多角的に分析できるフレームワークを紹介します。
PEST分析
外的要因を「政治」「経済」「社会」「技術」の4つに分けて整理し、それらが自社に与える影響を分析するフレームワークです。いずれも業界や企業の意思で制御できない部分で、市場の変化や顧客の購買行動の変化をもたらします。
例えばいくら新サービスを開発したとしても、その分野に社会的な逆風が吹いているようであれば、市場自体が縮小していく可能性があります。自社の努力ではどうにもならないからこそ、PEST分析は戦略立案前に行なっておく必要があります。
5フォース分析
自社が関わる業界や、これから参入する業界について、多面的に競争構造を分析する際に用いるフレームワークです。
「買い手の交渉力」「売り手の交渉力」「競合他社との競争力」「新規参入者の脅威」「代替品の脅威」の5つの要素に整理して分析することで、業界の収益構造や競争要因を見つけることができます。
買い手の交渉力 | 買い手と自社との力関係。競合が多く他社への乗り換えがしやすい場合は買い手の方が強くなる。 |
売り手の交渉力 | 売り手(原材料の供給業者、仕入れ先など)と自社との力関係。売り手の数が少ない、乗り換えの際にコストがかかるなどの場合は、売り手の力が強くなる。 |
競合他社との競争力 | 競合他社と自社の直接的な競争。業界内に競合他社が多い、あるいは市場規模が小さかったり低成長だったりする場合などは価格競争になりやすい。 |
新規参入者の脅威 | 業界への参入のしやすさ。参入のハードルが低い程、業界内での競争が激しくなる。 |
代替品の脅威 | 同業他社ではなく、業界外からの代替品の可能性。既存商品と同等の機能を持ち、なおかつコストパフォーマンスの高い代替品が現れた場合、自社だけでなく業界全体の収益に関わる脅威となる。 |
こちらもPEST分析と同様、自社努力が及ばない範囲のため、新規事業への参入などを行う際には戦略立案以前に分析を行い、現状の脅威や今後の可能性を把握しておく必要があります。
自社の立ち位置把握のためのフレームワーク
自社の強みや弱み、独自性と外部環境をあわせて分析し、市場における機会や脅威を見つけるためのフレームワークを紹介します。
3C分析
「顧客(Customer)」「競合(Competitor)、自社(Corporation)の3つの視点から事業を分析し、成功要因を探っていくフレームワークです。
Customer(顧客・市場) | 自社の事業・サービスがターゲットにしている顧客や市場のニーズを分析する。市場をマクロでみながら、よりミクロなエンドユーザーの特性の分析もあわせて行うことが必要。 |
Competitor(競合) | 自社と同じターゲットユーザーのニーズを満たす企業を整理する。自社と同じ商品・サービスの「直接競合」と、別の方法で顧客ニーズを満たす「間接競合」に分けられる。 |
Corporation(自社) | 事業を行う上での自社の独自性やリソースの状況を分析する。 |
3C分析は「顧客・市場」→「競合」→「自社」の順番で行うことが重要です。自社から分析を行うと、自社にとって都合のよい情報分析となり、顧客目線での戦略立案ができない可能性があるためです。
SWOT分析
内部環境を分析する「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」、外部環境を分析する「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」の4象限に分けて分析するフレームワークです。
それぞれの象限ごとに考えられる事柄をなるべく多くあげていくことが詳細な分析につながります。一方で散漫な分析にならないよう、自社の事業やサービスの目標やターゲットユーザーを定めた上で、取り上げるべき情報を取捨選択することも重要です。
また、強みについては「生かす・伸ばす方策」、弱みは「克服方策」、機会は「どう捉えて追い風にしていくかの方策」、脅威は「どう回避するかの方策」を合わせて検討することが必要になります。
STP分析
市場の全体像を把握した上で自社の立ち位置を確立していくためのフレームワークです。
市場を細分化する「セグメンテーション」の切り口はさまざまなものがありますが、「人口統計的属性」「地理的属性」「心理属性(価値観やライフスタイルなど)」「行動属性(購買回数など)」の4つに分けるのが一般的です。
「セグメンテーション」→「ターゲティング」→「ポジショニング」の順番で検討を進めることで市場での差別化を図る戦略立案が可能となります。ただし、既存商品の販路拡大をめざす場合などの場合は、ポジショニングから考えてみることも有効です。
顧客分析のためのフレームワーク
自社の商品やサービスのターゲットユーザーの思考や行動をより詳細に分析し、それに応じた施策の展開を検討するためのフレームワークを紹介します。
ペルソナ
ターゲティングとは違い、ある特徴を持ったユーザー層全体ではなく、自社の商品・サービスと親和性の高い特定のユーザー層を規定するためのフレームワークです。
年齢や性別、住まいや仕事といった基本的な情報とあわせて、趣味や嗜好、メディアとの接し方など細かく設定していくことで、ユーザー像をより明確にして理解を深めることができます。
カスタマージャーニーマップ
カスタマー(顧客、ユーザー)の行動をジャーニー(旅)に見立て、ユーザーが商品・サービスに関わる一連のプロセスを視覚化するフレームワークです。
設定したペルソナがどう商品・サービスを認知し、どう購入に至るのかのステップを詳細に規定していきます。
目標設定のためのフレームワーク
Webマーケティングの戦略に目標設定は欠かせません。ここでは適切な目標設定のためのフレームワークを紹介します。
KPIツリー
最終目標から逆算して、何をどれだけ実施する必要があるかを明確にするためのフレームワークです。目標設定を「KGI」「KSF」「KPI」に分解して整理し、構造として視覚化していきます。
KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標) | 最終達成すべきゴールのことで、まずはここから決める必要がある。売上や利益だけではなく顧客満足度なども当てはまる。 |
KSF(Key Success Factor:重要成功要因) | KGI達成のための重要な要因のこと。達成に向けたプロセスのことを指す。 |
KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標) | KGIを達成するために必要なプロセスを数値化したもの。 |
KPIツリーは最終目標達成のための目標やアクションを明確にしてこれらを図化したものであるため、チーム内でも共有しやすいというメリットがあります。目標達成のボトルネックとなっている要素の特定にも有用です。
前述した通り、根幹にはロジックツリーがあります。
SMART
質の高い目標を設定するためのフレームワークです。数値目標は施策の実施前に立てられるものであるため、いざ評価の段階になって適切な数値目標が設定されていないことに気がつき、目標自体が形骸化してしまうことも少なくありません。
このSMARTを満たすことを意識して目標設定をすることで、効果検証や振り返りを十分に行えるようになります。設定の際には必ずこれらの視点を持つように注意しましょう。
改善のためのフレームワーク
戦略を決めて数値目標を設定しても、実施後に振り返りをしなければ改善につなげることはできません。ここでは継続的な振り返りをして改善のスパイラルを創出していく、改善のためのフレームワークを紹介します。
PDCA
改善のためのフレームワークとして一般化している認知度の高いフレームワークです。「PDCAサイクル」という言葉で広く知られており、サイクルの名の通り継続的に繰り返すことで施策内容やプロセスをアップデートしていくことができます。
PDCAは具体的な手法というより、マーケティング戦略を効果的に改善していくための大枠の考え方です。言葉として理解していても、実際にプロジェクトを遂行している中で「評価」の段階が抜けたまま改善策を考えていたり、評価はしているものの具体的な「改善」につながっていなかったりという事態に陥っていることも少なくありません。また、適切な時期に適切な頻度で振り返りの機会を設けていない場合もあります。
マーケティング戦略を決める際は、このPDCAのサイクルも予め実行スケジュールに落とし込んでおくことが重要です。
KPT
施策の成果や課題、具体的な改善策を検討するためのフレームワークです。
KPTそれぞれの視点で施策の振り返りをすることで、良かったこと、悪かったこと、次に取り組むべきことを効率的に明確化できます。
なお、「やったこと(Yattakoto)」「わかったこと(Wakattakoto)」「次にやること(Tsugini-yarukoto)」からなる「YWT」をKPTにかけ合わせる方法もあります。
フレームワーク活用の注意点
Webマーケティングを成功に導くためには、上記のようなフレームワークを適切に活用することが重要です。一方で、フレームワークの活用に際して注意すべき点もあります。
フレームワークはあくまで「手段」
フレームワークは答えを導き出すものではなく、現状を整理して今後の方向性を検討するために活用されるものです。そのため、フレームワークを使って考えるだけではなく、現状分析のその先を考える力が求められます。
また、フレームワークの活用にこだわりすぎることで、本質を見失ってしまう可能性もあります。フレームワークに合わせてきれいに整理したつもりでも、課題が一般論に終始していたり、実現性の乏しいアイデアばかりが導き出されていては本末転倒です。
フレームワークは有効なアイデアを考え出すためのたたき台であることを意識して、「手段」として活用するようにしましょう。
情報は根拠のあるもののみ使用する
Webマーケティング分野の特徴は、データを用いた客観的な分析・検証ができるという点にあります。フレームワークを用いる際にも同様に、なるべくWeb解析や分析を通じて得た数字など、客観性が担保された情報を用いるようにしましょう。
もちろん、フレームワークで整理する情報の中には数値化できない定性的なものも含まれます。その場合であっても、なるべく客観的な事実に基づいた根拠ある情報を用いるように注意しましょう。
まとめ
今回は、Webマーケティングに活用できるフレームワークについて解説しました。
Webマーケティング戦略を考えていて思考が行き詰まってしまった場合に、きっと成功への道筋をつくる手助けをしてくれるはずです。知識として持っておくことも大切ですが、普段から積極的に活用してノウハウを身につけてみてください。