SNS時代に合ったマーケティング手法である「ファンマーケティング」について、三部の連載形式で解説していきます。
第三弾となる今回は、ファン目線の投稿を自社のPRに活かす「UGC」について。ユーザーが気軽に自分の“好き”を発信できる、このSNS時代だからこそのマーケティング手法について詳しく紹介していきます。
UGCとは
UGCとはUser Generated Content(ユーザー生成コンテンツ)のこと。つまり企業側ではなく、ユーザーによって制作・発信されるコンテンツのことを指します。
UGCの具体例
・InstagramなどのSNS投稿
・ECサイトにおける商品レビュー
・口コミサイトにおける消費者の書き込み
・コーポレートサイト・ブランドサイト等におけるQ&A
これらUGCの前提は、「ユーザー自身の価値観に基づき発信された内容である」ということです。ただしファンマーケティングの文脈におけるUGCは、自社商品・サービスの魅力を訴求できるコンテンツであることが肝心です。それゆえ、ただの口コミではなく「ファンによって投稿された良質な口コミ」であることが求められます。
SNSとUGCの関係
上で述べたように、UGCとはユーザー発信のコンテンツ全体を指す言葉です。しかしファンマーケティングにおけるUGCを考える際には、やはりSNSでの投稿が中心となるでしょう。
SNSが生むUGCの好循環
SNSは近年、情報発信の手段としても、情報収集の手段としても主流となっています。
このことは、SNSにはUGCの「作成者」も「閲覧者」も多く存在していることを意味します。多くの作成者によってつくられたUGCは、多くの閲覧者によって認知されます。それが購買につながり、さらなるUGCの作成につながっていく。そんな好循環が生まれやすくなるのが、SNSにおけるUGC活用の最大の特徴です。
SNSごとのUGCの特徴
SNSにはさまざまな種類があり、それぞれ異なる特性を有しています。日本国内でポピュラーなSNSである「Instagram」「Twitter」「TikTok」のそれぞれについてUGCとの関係を見ていきます。
⚫️Instagram
SNSの中でもInstagramは、最もUGCと好相性と言えるでしょう。事実、企業によるUGC活用はInstagramのユーザー投稿が多数を占めています。
これにはInstagramのビジュアルコンテンツとしての特性が大きく関係しています。特に化粧品やファッションアイテムなどはユーザーによるリアルな使用感をイメージできるため、購入を後押しする上で重要な要素となります。
⚫️X(旧Twitter)
X(旧Twitter)の最大の特徴は、リポスト機能による拡散性とリアルタイム性です。「思わず話題にしたくなる」ような仕掛けをすればUGCが増え、さらに第三者に拡散されて話題になる可能性を秘めています。
一方でテキストメインの投稿となるため、Instagramに比べるとどうしてもビジュアルコンテンツとしての訴求力は弱くなります。気軽にリポストできるというその特性から、リポストキャンペーンなどで活用することが多くなっているのも特徴です。
⚫️TikTok
ショート動画投稿メインのSNSで、特に若い世代との親和性が高くなっています。
元々はダンス動画投稿で人気に火がついた印象がありますが、商品紹介動画が多いのも特徴。「TikTok売れ」という言葉があるほど、購買行動に直結するSNSとなってきています。
TikTokにおけるUGCのキーワードとなるのは「真似したくなる」ものであること。シミュラークル(真似して楽しむことのよる情報の広がり)を意識したコンテンツづくりにより、コンテンツが爆発的に広まりユーザーの購買に直結させる効果が期待されます。
主なUGCの活用パターン
UGCというのはあくまでユーザー自身の意見、口コミのことであり、いわば「素材」の状態です。「自然発生的な口コミ」から、「自社商品・サービスの新たなファン獲得・購入につながるコンテンツ」に昇華させるためには、企業側がUGCを訴求力のある形で二次発信していくことが求められます。
それではどのような活用パターンがあるのか、いくつかの例を挙げて説明していきます。
自社サイトやLP、ECサイトへ掲載
自社サイトなどに「リアルな声」としてUGCを掲載する手法です。良質な口コミは購買への大きな動機づけになるため、特にECサイトでは有効な手段と言えるでしょう。
口コミを掲載すること自体は従来のサイトでも良くみられた方法ですが、Instagramの投稿を活用することで写真や動画による訴求が可能となるため、より使用イメージがしやすくなり、購買意欲を刺激することができます。
広告素材として活用
UGCを広告クリエイティブに活用する手法です。「いかにも広告」という印象を与えるクリエイティブの広告はユーザーから読み飛ばされやすい傾向があるため、あえてUGCを使用することで「生活者目線」の広告クリエイティブにできます。
特にSNS広告の場合、広告クリエイティブにUGCを活用することでフィードに馴染み、ユーザーの目に留まりやすくなるというメリットがあります。
SNS公式アカウントで紹介
Instagramなどの公式アカウントでユーザーの投稿を取り上げる手法です。Instagramにおいては、フィードで再投稿する場合と、ストーリーで引用する場合があります。
これは公式アカウントを訪れた人しか見ることができないUGCのため、新規ファン獲得のためというより、親近感のある投稿でフォロワーとのエンゲージメントを高めることが目的となります。さらに自身の投稿が公式アカウントに取り上げられたファンが、その企業やブランドへの愛着をより深めるという効果も期待できます。
UGCの活用メリット
ファンマーケティングの連載 #1、#2の中でも、広告を嫌うユーザーにファン目線の投稿が刺さり、訴求力の高いものになるということをお伝えしてきました。UGCは#2で解説したアンバサダーマーケティングよりも一般ユーザーの「ファン目線」の要素がより強いため、その点においてさらに効果的なコンテンツであると言えるでしょう。
ではUGCの活用により、具体的にどのようなメリットを得られるのかを説明していきます。
メリット1:ユーザーの信頼を得られる
インフルエンサーやアンバサダーによる投稿も「生活者視点」での投稿となるため、UGCの一種となります。しかしインフルエンサーやアンバサダーは企業との特別な関係が生じていることで、どうしてもオーガニックな投稿とみなされづらい傾向があります。つまり「本音の投稿なのか?」という疑いの余地がユーザーに生じてしまうということです。
その点でUGCは利用者の生の声を取り上げているものであるため、リアリティを感じてもらいやすくなり、信頼につながりやすいというメリットがあります。
メリット2:ユーザーの購買行動を喚起する
「インスタ売れ」「TikTok売れ」という言葉があるように、ユーザーによるコンテンツは購買行動に直結しやすいという特徴があります。それは親しみやすい投稿により、生活の中でどう取り入れるかをイメージしやすくなるためです。
加えてUGCが単一のコンテンツではなく、複数人によって投稿されたコンテンツであるということも購買につながる大きな理由となります。複数人のレコメンドがあることで購買にあたっての安心材料となり、ユーザーの購買を後押ししてくれるのです。
さらにUGCが多い商品やサービスは「同じように購入して投稿すれば、より多くのいいねがもらえる」という点でも購買行動を喚起するものとなります。つまりSNSで情報を収集するだけでなく「発信する」視点から見ても、魅力的なUGCが集まる商品・サービスは購買の動機となり得るということです。
メリット3:企業とファンの関係性が深まる
UGCを企業側が活用することで、投稿したファンと企業との間に関係性が生まれます。企業にとってはUGCの収集に際してファンのリアルな声を知ることができるため、ファン視点も踏まえた商品開発・改善施策を打ち立てることができます。ファンにとっては自身の投稿が企業の公式アカウントに紹介されることで、その企業を身近に感じることができ、愛着が醸成されることが期待されます。
またUGCを企業アカウントで紹介する際には投稿者とコミュニケーションを図る場合もあるため、UGCを通じた企業とファンの関係性の構築がされていくというメリットもあるのです。
UGCの活用事例の紹介
企業によるUGCの活用は、商品名、あるいは企業側で指定したハッシュタグをつけて投稿されているコンテンツを収集していくことが一般的です。ここではハッシュタグをつけて投稿されたUGCを有効に活用し、購買のきっかけとしたり、新たなファンづくりにつなげたりしている好事例を紹介します。
投稿促進キャンペーンでUGC数を大幅アップ
UGCが多い程、多くの人の目に留まる可能性が増していきます。既存ファンの盛り上がりに寄与するだけでなく、新規ファンの獲得につながる投稿促進キャンペーンは、基本的なUGC施策といえます。
サッポロ一番公式Twitter(@sapporo1ban_jp)
サッポロ一番公式Instagram(@sapporo1ban_jp)
「#偏愛サッポロ一番」というハッシュタグをつけて自分の好きなサッポロ一番のアレンジを投稿するキャンペーンです。TwitterとInstagramの両方から参加できるために参加ハードルが低く、多くの投稿が寄せられました。
UGCの数を得られただけでなく、ユーザー投稿による自社商品の魅力を再発見するというメリットもあるキャンペーンです。
飛鳥クルーズ公式Instagram(@asukacruise_)
世界一周クルーズ豪華客船「飛鳥Ⅱ」の公式Instagramで実施された写真投稿キャンペーン。「#飛鳥2みつけた」「#⚫️⚫️(撮影地)」という指定ハッシュタグをつけて飛鳥Ⅱの写真を撮って投稿することで、抽選でプレゼントがもらえるというキャンペーンです。
飛鳥Ⅱ自体は全国的な知名度がとても高いというわけではありませんが、キャンペーン期間中は多くの愛好家から応募写真が寄せられました。「キャンペーンは誰もが知っているような有名企業しか盛り上がらないのでは」という懸念の声を聞くこともありますが、コアなファンがいる商品・サービスでも多くの投稿がなされています。普段は投稿しない「隠れファン」の投稿のきっかけにもなるのがキャンペーンのポイントです。
UGCを自社のLP・ECサイトのトップに活用
UGCを自社サイトに活用した事例をご紹介します。
ワークマンのECサイトでは、自社で制作したコンテンツに加え、トップページに「workmanフォト」としてUGC投稿を掲載。「#ワークマン」「#ワークマン女子」「#ワークマンプラス」をつけてInstagramに投稿されたコンテンツを企業側が収集し、投稿者の了承を得た上で掲載しています。
ユーザーそれぞれの視点からワークマン商品を紹介しているため、見る側にとってさまざまなヒントが得られるコンテンツとなっています。
「みんなのトヨタグラム」は、単なる車種の紹介という枠を超え、生活における車との関わり方も含めて発信していくトヨタ自動車のLPサイト。コンテンツはほぼ「#トヨタグラム」のハッシュタグをつけてInstagramに投稿されたUGCのみで構成されています。
愛車に対するファンの強い想いが感じられる投稿の数々は見ていても楽しく、さらに気になった写真にアクセスすると、掲載車種のページに移動し、販売店を探すこともできます。
リポスト専用アカウント
UGCを公式アカウントで紹介する際に懸念されるのが、公式アカウントの世界観に影響するのではないか、という点です。特にInstagramにおけるブランド公式アカウントの投稿は画像色調などが統一されている場合も多く、そこにUGCが入ることで全体的な統一感が損なわれる可能性があります。
そんなときに役立つのが「リポスト専用アカウント」です。公式アカウントとは別に、UGCをリポストするための専用アカウントをつくることで、ブランドの世界観を壊すことなくUGCを紹介することができます。
JTBリポスト専用アカウント(@jtb_tabishitai)
旅行代理店JTBが指定した「#JTBで旅したい」のハッシュタグをつけて投稿された一般ユーザーの旅行先の写真をリポストしているアカウントです。企業側からだけの投稿ではできない、バラエティ豊かな旅行先と各々の楽しみ方が集まっており、アカウント名にもなっている「旅したい」という旅行欲を高めてくれます。
Canon EOS公式アカウント(@eos_canonjp)
CanonのEOS国内公式アカウントでは「#my_eos_photo」をつけて投稿されたユーザーの写真作品を紹介しています。
ユーザーが撮った写真がリポスト専用アカウントに並ぶことで、eosを使うとどのような写真が撮れるのかということがより分かりやすくなっています。Instagramのビジュアルコンテンツとしての面と「ユーザー視点の投稿」というUGCならではの特徴が、カメラの持つ商品特性にマッチした好事例と言えるでしょう。
UGC活用の注意点
ファン目線でユーザーに訴求力の高いコンテンツが得られるUGCですが、企業発信のコンテンツではない点で、いくつか注意が必要な点があります。
UGCが生まれにくい商品がある
UGCはユーザーからの発信が前提となるため、使っていることを公にしたくないコンプレックス商材を扱っている場合は、UGCは生まれにくくなります。その場合は個人情報と紐付きやすいSNSではなく、匿名での口コミや顧客インタビューなどからファンの生の声を収集していく工夫が必要です。
「オーガニック」を意識
UGCを活用したマーケティング手法にはインフルエンサーやアンバサダーへの投稿依頼や、プレゼントキャンペーンなども考えられます。しかしユーザーによるオーガニックな投稿の活用の方がより本来の目的に近い効果が得られるでしょう。
特にZ世代を中心に、ユーザーは「つくられた情報」に敏感になっています。インフルエンサー等への投稿依頼やプレゼントキャンペーンもUGCを増やすためにもちろん有効な施策ですが、並行してオーガニックなUGC投稿を増やす仕掛けも検討していきましょう。
企業側である程度コントロールが必要
UGCの内容を企業側が細かく指定することはできませんが、「企業の世界観を守る」「トラブルを防ぐ」という2つの視点から、UGC活用にあたりある程度のコントロールが必要です。
「企業の世界観を守る」というのは、UGCを積極的に企業で二次利用する際に重要となる視点です。特に世界観を大切にする企業やブランドでは、UGCの投稿を募集する際に色味の指定などを行う場合もあります。
「トラブルを防ぐ」視点は、UGC活用の際には欠かせません。UGC投稿の中に薬機法など法律に抵触するような表現がないか、意図せず差別的な表現が使われていないかを注意する必要があります。
また、企業側でUGCを二次利用する場合は、事前にその旨を明示しておくことが必要です。記事内で紹介したキヤノンのリポスト専用アカウントでは「紹介する際に事前連絡はしない」「著作権、肖像権は事前に使用承諾を得ているものとする」という注意事項をキャプションにて記載しています。ユーザーの投稿を利用する上で、トラブルを未然に防ぐよう細心の注意を払うことが必要です。
“バズり”のみにとらわれないように
TikTokに代表されるように「みんながやっているから真似したい!」という感情は、多くのUGCを生み出すことにつながります。しかしそれは一過性のブームに終わる可能性があるという点に注意しましょう。
ファンマーケティングには、自社へのファンを育成し中長期的にファンとの関係性を深めていく視点が欠かせません。UGCが増えることは認知拡大のために重要なことではありますが、量にとらわれすぎず、本当に自社商品・サービスに愛着を持つファンのUGCを増やしていく視点を忘れないようにしましょう。
まとめ
3回にわたり、ファンマーケティングについて解説してきました。近年「推し」という言葉が一般化していることからも分かる通り、「自分の好きな対象を応援したい」という気持ちが行動原理になる人も増えています。そんなファンの“好き”の熱量は、自社商品・ブランドがさらなるファンを獲得していくための重要なエンジンとなることでしょう。
何より企業やブランドにとって大切なのは、自社商品・サービスに対してファンに負けない熱量を持つということ。ファンと高め合いながら「共創」する気持ちを大切に、商品・サービスを育てていきましょう。